はじめに
- 40代男性
今までは飲みすぎた後に胃がムカムカするだけだったけれど、最近はお酒を飲まない日でも朝からムカムカする。夜中に胸やけで目が覚めることもあり、これって年齢のせい? - 30代女性
食後に胸やけが続く。脂っこいものを食べると症状がひどくなるのは自覚しているけど、最近はのどの違和感も感じるようになった。食事は普通にできるけど、なんだかスッキリしない…。
こうした「原因がはっきりしない胸やけや胃のムカムカ」を訴える方は、外来でも非常に多く見受けられます。
また、健診や人間ドックで「逆流性食道炎」と指摘されても、具体的な説明がなく、対応に悩む方も少なくありません。
逆流性食道炎は、今や日本人の5〜10人に1人がかかっているとされる非常に身近な疾患です。
今回は、逆流性食道炎について
- 生活習慣で気をつけるポイント
- 薬との上手な付き合い方
を中心に、消化器病専門医の視点からガイドラインに沿ってわかりやすく解説していきます。
逆流性食道炎とは?症状と原因
逆流性食道炎(GERD)は、胃酸が食道へ逆流し、食道粘膜に炎症を引き起こす病気です。
また最近では、食道の知覚過敏も症状に関与することがわかっています。
主な症状は、
- 胸やけ
- 酸っぱい胃内容物が喉や口まで上がってくる(呑酸)
です。
空腹時や食後、就寝中、起床時などに症状が出やすく、症状が進行すると
- 胸の痛み
- のどの違和感
- 長引く咳
などを引き起こすこともあります。
耳鼻科や呼吸器内科を受診しても症状が改善せずに、逆流性食道炎の精査で消化器内科を紹介となる方も多いです。
診断にはどんな検査が必要?
基本は胃カメラ(内視鏡検査)で診断します。
- 食道と胃の境目(食道胃接合部)を観察し、炎症の有無や範囲を評価します。
- 胸やけや呑酸に加え、内視鏡で炎症像が認められた場合に「逆流性食道炎」と診断されます。
一方、内視鏡で炎症が見られないタイプ(非びらん性逆流性食道炎:NERD)も存在し、症状や経過、他疾患除外を総合的に判断して診断されます。
逆流性食道炎と診断されたら生活習慣で気をつけること
下部食道括約筋(LES)の働き
食道と胃の間には、「下部食道括約筋(Lower Esophageal Sphincter:LES)」と呼ばれる筋肉があります。
このLESが食事を飲み込むとき以外はしっかり閉じていることで、胃の内容物が逆流しないように保たれています。
逆流性食道炎では、このLESの機能低下が大きく関与しています。
食事・飲み方・姿勢でできること
- 食後すぐ横にならない
→ LESの締まりが悪くなった状態で横になると逆流しやすくなるため、食後1〜2時間は体を起こして過ごしましょう。
→ 特に夜間・早朝に症状がみられる方は、就寝の3時間前までに夕食を終えるのが望ましいです。
→ 枕を高めにする、リクライニングでもたれて座るなどの工夫も効果的です。 - 脂肪分を控える
→ 脂肪分が多い食事は、十二指腸から分泌されるコレシストキニンというホルモンの影響で、LESが緩みやすくなります。 - 暴飲暴食を避ける
→ 胃が過度に拡張されるとLES圧が下がり、逆流が起こりやすくなります。 - カフェイン・アルコール・刺激物を控える
→ 胃酸分泌が増え、食道粘膜を刺激しやすくなります。
生活習慣で気をつけたいポイントまとめ
- 禁煙:LES圧を下げる原因となります
- 肥満の改善:内臓脂肪で胃が圧迫されると逆流リスクが高まります
- ストレス・睡眠不足の改善:知覚過敏の増悪因子として知られています
逆流性食道炎の内服薬との付き合い方
内服開始のタイミングと薬剤
- 強い症状がある場合や、生活習慣の改善で効果がない場合に内服を開始します。
- タケキャブ®やネキシウム®(エソメプラゾール)などの制酸薬を1日1回服用するケースが多いです。
有効な最適な有用方法
- 日中に症状が強い場合:朝食後に服用
- 夜間や起床時に症状が強い場合:夕食後または就寝前に服用
- 飲み忘れが少ない時間帯に調整しても構いません
治療期間の相場
- 通常はまず4〜8週間服用し、症状の推移を確認します
症状が改善したら?
- 症状が消失した場合は、減量または頓用に切り替え
- 頓用とは、症状が出たときに、症状が消失するまで連続して服用する方法
再燃(ぶり返し)した場合
- 減量・休薬後に症状がぶり返す場合は、元の量に戻して継続
初期薬剤で効果不十分な場合
- 消化管運動機能改善薬や漢方薬を併用
- 症状のパターン(胸やけ・胃の張り・げっぷなど)に応じて薬を使い分けます
- それでも効果が乏しい場合は、好酸球性食道炎や運動障害、心理的要因などの他の要因を精査
症状がないなら放っておいていい?
- 軽度の炎症であれば生活指導のみで経過観察することもあります
- しかし、無症状でも炎症が強ければ、狭窄を引き起こしたり、がん化(バレット腺癌)リスクも高まるため、治療を行うことがあります
- 主治医と相談して個別に方針を立てましょう
まとめ
- 胸やけ・呑酸など多彩な症状を引き起こす逆流性食道炎
- 診断は胃カメラを基本とし、NERDにも注意
- 食事・体位・体重管理・禁煙・ストレス対策が基本
- 制酸薬は症状に合わせて柔軟に使い分ける
- 無症状でも炎症が強ければ治療が必要になることがある
おわりに
以上、逆流性食道炎についてガイドラインに沿いながらわかりやすくまとめました。
症状に心当たりのある方や、健診で指摘を受けた方が、ご自身の体と向き合うきっかけになれば嬉しいです。
「これって逆流性食道炎かも?」と感じたときは、ぜひかかりつけの先生にご相談くださいね。
今後も健診異常や消化器疾患に関する情報を、医師の視点からわかりやすく発信していきます。
ご感想やご質問があれば、ぜひ教えてください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※本記事は、一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。
健康上のご不安がある場合は、必ず医師の診察を受けてください。
【参考文献】
日本消化器病学会, 胃食道逆流症(GERD) 診療ガイドライン 2021(改定第3版), 南江堂, 2021
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