~検査・除菌・その後の話、まとめて解説します~
「この間、バリウムの検査を受けたら胃の粘膜が荒れていて、“ピロリ菌がいるかもしれません”って言われました。」
「人間ドックで“ピロリ菌”の血液検査をしたら陽性に。症状は全然ないんですけど…。」
「親や兄弟が“ピロリ菌”の治療をしていて、私も感染してるんじゃないかと不安で…。」
“ピロリ菌”
名前の響きはかわいらしいですけど、なかなかやっかいな存在です。
ただ、むやみに怖がる必要はありません。
きちんと検査をして、必要な治療とフォローアップをしていけば大丈夫です。
今回は、消化器内科医としての立場から、
「ピロリ菌が陽性だった方に、ぜひ知っておいていただきたいこと」をわかりやすくまとめてみました。
ピロリ菌って何?
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の粘膜にすみつく細菌です。
一度感染すると、自然にはなかなか消えず、そのまま炎症を起こし続けることになります。
ピロリ菌が胃に長く感染し続けると、以下のような病気のリスクが上がってきます。
・慢性的な胃炎(萎縮性胃炎)
・胃や十二指腸の潰瘍
・胃ポリープ(過形成性ポリープ)
・胃MALTリンパ腫
・胃がん
中でも胃がんについては、ピロリ菌感染が最大の危険因子とされています。
除菌をすることで、今後の胃がんの発症率は半分〜3分の1程度まで低下するとされており、早期に除菌することが有用とされています。
ピロリ菌の検査方法は?
「ピロリ菌がいるかどうか」は、いくつかの方法で確認できます。
・尿素呼気試験(UBT):息を吐くだけでわかる、負担の少ない検査です
・便中抗原検査:便に含まれるピロリ菌由来の物質を調べます
・血液・尿の抗体検査:現在または過去に感染歴があるかを調べる検査です
・胃カメラ中の検査(迅速ウレアーゼ試験・病理組織検査など)
人間ドックのオプションでは、血液や尿中の抗体検査が多い印象でしょうか。
胃カメラも必要なの?
「検査結果だけで除菌はできませんか?」とよく聞かれますが、
保険診療でピロリ菌の除菌治療を行うには、胃カメラが必要です。
なぜなら、上記の検査では、
・過去の感染を反映しているだけで、現在は感染していない可能性
・偽陽性(本当は陰性なのに陽性と出てしまう)も一定数起こりえる
そのため、胃カメラの検査が必要となるのです。
ピロリ菌に感染している胃の粘膜には、正常の胃とは異なる特徴的な変化が見られます。
・粘膜の凹凸が目立つ
・粘膜が広い範囲で赤くなる
・胃のヒダが太くなったり、ヒダ自体が消失したりする
こうした内視鏡所見に加えてピロリ菌検査が陽性であれば、現在も感染が継続していることが証明され、除菌の適応となります。
逆に、内視鏡でピロリ感染を示すサインがあるにもかかわらず、検査が陰性になる方もいます。
これは、胃酸の状態や過去の抗生物質の影響などで、知らないうちに除菌されている場合があるからです。
このような場合には、除菌の必要はありません。
さらに、抗生物質や一部の胃薬(たとえばタケキャブやネキシウムなど)を服用していると、検査結果が正確に出ないことがあります。
このため、検査前には2〜4週間ほどお薬をお休みしてから受けるのが望ましいとされています(※薬剤により期間は異なります)。
このように「除菌する・しない」の判断は、検査結果+内視鏡所見の組み合わせがとても重要です。
除菌治療ってどんなことをするの?
ピロリ菌がいると診断されたら、基本的には除菌治療の対象になります。
というのも、ピロリ菌がいなくなることで、
・胃がんのリスクが減る
・胃・十二指腸潰瘍の発症を防げる
という大きなメリットがあるからです。
治療はシンプルで、7日間のお薬の内服です。
・抗生物質を2種類
・胃薬(PPIやP-CAB)を1種類
これらをセットにして、朝晩の1日2回、7日間しっかりと飲み切る。それだけです。
ただし、飲み忘れたり途中でやめてしまうと、除菌の成功率が下がってしまうので、
忘れずに飲み切ることがとても大切です。
除菌できないこともあるの?
残念ながら、1回目の除菌治療でうまくいかないこともあります。
統計では、およそ8割の方が1回目で成功します。
残りの2割の方は、ピロリ菌が抗生物質に対して耐性を持っており、効かないことがあります。
1回目の除菌が不成功だった場合は、抗生物質を別の種類に変えて、2回目の除菌治療を行います。
2回合わせれば、ほとんどの方が除菌に成功します。
除菌できたかどうかを確認するには、
「尿素呼気試験」または「便中抗原検査」のいずれかで調べるルールとなっていますが、ここでも注意点が。
除菌が終わってすぐに検査してしまうと、正しく判定できません。
最低でも4週間は間を空けてから検査を行うようにしましょう。
除菌治療に注意が必要な方もいます
すべての方がこの治療をそのまま受けられるわけではありません。
・ペニシリンアレルギーがある方
→ アモキシシリンが使えないため、抗生物質の組み合わせを変更する必要があります。
・透析中など腎機能が低い方
→ 使用する薬剤の種類や投与量を調整する必要があります。
ご自身が該当しそうな方は、必ず医師に相談の上、治療をご検討ください。
また、こうした方々に対しては、通常と異なる薬剤での除菌治療となるため、
保険適用外(自費診療)となる場合があります。
さらに、2次除菌が失敗し、3次除菌に進む場合も保険適用外です。
費用面についても事前に確認しておきましょう。
除菌したらもう終わり?…ではありません!
除菌が終わったからといって、すべて安心というわけではありません。
たしかに、ピロリ菌の除菌によって、
胃がんのリスクは半分~3分の1に減らせるとされています。
ですが、もともとピロリ菌に感染していなかった人と比べると、リスクは依然として高めです。
そして、実はこの胃がんの早期発見が非常に難しいのです。
専門医でも見逃してしまうことがあるほど、早期胃がんの見た目は非常に紛らわしい。
だからこそ、1回きりではなく、継続的に内視鏡検査を受けていくことがとても大事なのです。
フォローアップの頻度は?
「どれくらいの間隔で胃カメラを受ければいいですか?」
この質問はとてもよくいただきます。
ただし、現時点では明確な基準があるわけではありません。
というのも、
・胃の萎縮の進み具合
・年齢
・除菌したタイミング
などによって、胃がんのリスクが人それぞれ異なるからです。
一般的には、
・年1回の胃カメラが推奨されるケースが多い
・若年で萎縮が少ない方は、2年に1回も検討されることがあります
とはいえ、早期胃がんを見逃さないためには、
年1回のペースで継続して内視鏡を受けるのが安心です。
バリウム検査ってもう必要ないの?
ピロリ菌の除菌後、「毎年の健診でバリウム検査を受けた方がいいですか?」という質問も多くいただきます。
結論から言えば、除菌後の方にはバリウム検査はあまりおすすめしていません。
なぜかというと、
・萎縮した胃粘膜が、バリウム検査で「要精査」と出やすい
・結局、胃カメラでの再検査になることが多い
といった理由があるからです。
また、バリウム検査のメリットとされる未分化型の胃がん(スキルス胃がん)の発見も、
胃カメラ中に丁寧に観察することで対応可能であることがほとんどです。
健診時に「除菌後で、年1回胃カメラを受けています」と伝えていただければ、
バリウム検査を省略できるケースも多いため、ぜひ覚えておいてください。
費用やスケジュールの無駄を減らすためにも、覚えていただけると幸いです。
再感染の心配は?
除菌がうまくいったあと、
「またピロリ菌に感染することってあるんですか?」と聞かれることがあります。
結論から言うと、再感染はかなりまれです。
衛生環境の改善もあり、再感染率は1%未満と言われています。
基本的には、
一度しっかりと除菌成功が確認できていれば、以後ピロリ菌の検査は不要です。
ただし、例外として、
・胃の粘膜の模様に再び変化がみられた場合
・症状の変化があった場合
などは、再感染の可能性を考慮して再検査を行うことがあります。
この場合は、医師から再検査の提案があると思いますので、受けていただければと思います。
子どもにうつることってあるの?
ピロリ菌の感染経路は、完全には解明されていませんが、
胃の中にすみつく性質から、「経口感染」が最も有力とされています。
かつては、
・井戸水の使用
・衛生環境が整っていない状況
が感染の一因とされていました。
しかし、現在でも数%のお子さんに感染が続いていることが報告されており、
「親から子への口移し」などの生活習慣が関与しているのでは?と考えられています。
「子どもも検査したほうがいいですか?」という質問に対しては、
・症状がなければ保険診療の対象外です
・検査をする場合は自費診療となり、便中抗原検査や尿中抗体検査など身体に負担の少ない方法で行います
気になる方は、かかりつけ医に一度相談してみてください。
最後に
ピロリ菌は、胃がんや胃・十二指腸潰瘍の大きなリスクとなる存在です。
でも、きちんと検査して、除菌治療とフォローアップを行えば、リスクは大きく減らすことができます。
健診や人間ドックで「ピロリ菌がいるかも」と言われて、
なんとなく不安…という方の参考になれば嬉しいです。
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※本記事は、一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。
健康上のご不安がある場合は、必ず医師の診察を受けてください。
参考文献
- 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会(編).
H. pylori感染の診断と治療のガイドライン 2024改訂版. 先端医学社, 2024. - 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会(編).
H. pylori感染の診断と治療のガイドライン 2016改訂版. 先端医学社, 2016.
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