みなさんこんにちは。
気ままな勤務医です。
今回は、健診・人間ドックの異常シリーズから
【肝機能異常(肝機能障害)】をテーマにお届けします。
「ちょっとくらい大丈夫でしょ?」その油断、危険かも
- 「どうせお酒のせいでしょ?もう少し悪くなったらやめるよ」
- 「脂肪肝は前から言われてたし、数値がちょっと上がっただけでしょ?」
こんなふうに思っていませんか?
わかります…。
私もお酒は好きですし、脂肪肝持ちです。
お気持ちは痛いほどわかります。
でも、消化器・肝臓の専門医の立場から言わせていただくと、
**「放置していい肝機能異常」と「放置してはいけない肝機能異常」**があります。
見極めることがとても大切なのです。
目次
肝臓ってそもそも何してるの?
「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓。
ほとんど自覚症状が出ないため、異常を見逃しやすい臓器です。
でもその働きは実に多彩。たとえば…
- 栄養素(糖・脂質・たんぱく質)の代謝・貯蔵
- 体にとって有害な物質(毒素や薬)の解毒
- 消化を助ける胆汁の分泌
- 出血を止めるための「凝固因子」の産生
こんなにも重要な仕事を担っています。
健診で行う採血では、
- AST(GOT)
- ALT(GPT)
- γ-GTP
- ALP
- LDH
- 総ビリルビン
- アルブミン(ALB)
などの項目をチェックし、肝臓の状態をみています。
専門医が必ずチェックする7つのポイント
では、実際に受診されたら専門医がどんな観点で診ていくのか?
順に解説します。
1.生活習慣病のチェック
脂肪肝の背景に、糖尿病・脂質異常症・高血圧といった生活習慣病が隠れていることは珍しくありません。
これらを放置すると、肝臓にも大きな負担がかかり続けます。
だからこそ、肝機能異常がある場合は、
**「生活習慣病も隠れていないか?」**を必ずチェックします。
2.薬・サプリメントの確認
肝臓は、体に入った薬やサプリを解毒・代謝する大切な役割を持っています。
そのため、
- 病院で処方された薬
- 市販薬
- 健康サプリメント
すべてが肝臓に影響する可能性があります。
特にサプリメントは、自己申告し忘れる方がとても多いので、
**「薬のほかに、サプリメントも飲んでいませんか?」**と必ずお聞きします(笑)。
3.ウイルス性肝炎の検査
B型肝炎・C型肝炎は、自覚症状がないまま進行してしまう病気です。
特にB型肝炎は、肝硬変になっていなくても、
肝臓がんを発症するリスクが高いのが特徴。
定期的な採血や画像検査が必要です。
一方、C型肝炎は、抗ウイルス薬の登場により、
ウイルスの完全排除が内服治療で可能な時代に。
治療によって、肝硬変への進行を抑制したり、肝臓がんの発生リスクを低下させることができます。
4.自己免疫性肝疾患の検査
「自己免疫性肝炎(AIH)」は、
自身の免疫が肝臓を攻撃してしまうことで起こる炎症です。
- 関節リウマチなどの膠原病に似た病態
- 女性にやや多い
- 治療にはステロイドなど免疫抑制薬が必要になることも
進行すると肝硬変につながるため、早期発見がとても大切です。
また、「原発性胆汁性胆管炎(PBC)」という胆管の自己免疫疾患もあり、こちらも放置すると肝線維化が進行します。
5.甲状腺機能の検査
あまり知られていませんが、
甲状腺機能異常(バセドウ病・橋本病)でも肝機能異常が出ることがあります。
見逃されやすい盲点なので、必要に応じて甲状腺ホルモンもチェックします。
6.肝硬変になっていないかのチェック
肝機能異常を長期間放置すると、ダメージが蓄積し「線維化(硬くなること)」が進行します。
この高度な線維化が進んだ状態を**「肝硬変」**と呼びます。
肝硬変に至ると、肝臓がん発生リスクは一気に上昇します。
- B型慢性肝炎(線維化なし):年間発がん率0.1~0.5%
- 肝硬変:年間発がん率数%以上(原因疾患により異なる)
時間が経てば経つほど、その差は歴然となりますね。
つまり、
「肝硬変に至っている=がんのリスクが高い状態」。
定期的な採血や画像検査(エコー、CT、MRI)が必須になります。
7.腹部エコー(超音波)検査
血液検査だけでは分からない、肝臓の内部構造・形・腫瘍の有無などをチェックします。
- 脂肪肝では、肝臓が白くキラキラと見える
- 肝硬変では、肝臓の表面に凹凸が出る
- 肝臓がんや転移性肝がん(他臓器からの転移)を早期発見できる
また、γ-GTPやALP、ビリルビンが高い場合は、胆管の異常や胆石の有無も一緒に評価します。
まとめ:一度は専門医の目でチェックを
- 肝機能異常の原因はさまざま。中には治療が必要なものもある
- 肝硬変に至ると、肝臓がんリスクが大きく上昇する
- 診察・追加検査で「見逃してはいけない異常」を確実に除外しよう
「私は大丈夫!」と思っていても、一定数リスクの高い異常が混ざっています。
早めに専門医の目でチェックしてもらうことが、将来の安心につながります。
今後、健診でよく引っかかる「脂肪肝」についても、別記事で詳しく解説予定です。
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※本記事は、一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。
健康上のご不安がある場合は、必ず医師の診察を受けてください。
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