医者って日中何やってるの?|とある消化器内科医の一日【午後の告知外来とひっきりなしのPHS】
※この記事は前回のエッセイ「医者って日中何やってるの?|とある消化器内科医の一日【外来・診察編】」の続編です。
午前中の外来を何とか乗り切ったら、午後はより濃密な時間が始まります。
告知外来、抗がん剤の最終確認、そして絶え間なく鳴るPHSの着信──
医師にとって、本当の勝負はここからです。
外来では想定通りに進むこともあれば、もちろんそうでないこともあります。
我々の予想に反して、患者さんの病状が悪化している場合は、当然ながら時間をかけます。
検査結果や症状を確認し、必要があれば当日の追加採血や画像検査を緊急で予約。
これらも原則、当日の追加に対しては電子カルテ上のオーダーとは別に、該当の検査部門に一件ずつ電話をかけて調整をする必要があります。
開業医の先生から紹介される新規の患者さんも同様です。
健診や人間ドックの異常(便潜血陽性、ピロリ菌感染、肝機能障害など)の場合は緊急性のある場合はまれであり、必要な問診と説明を行い、今後の検査スケジュールを組み立てます。
一方で、強い腹痛+発熱、黄疸、消化管出血など緊急性が高いケースでは、当日に一気に精査を進めます。
患者さんには過剰な不安を与えないように気を配りながら、必要な検査内容や場合によっては入院の可能性についてもお伝えします。
消化器内科で緊急性の高い腹痛や消化管出血を評価する場合は造影CTという検査が必要になることが多いです。
この造影CT、昼休みの時間だけは医師の立ち会いが原則必要です(放射線科の先生がいないため)。
空いているチームの先生や研修医の先生にお願いすることもありますが、皆忙しく、結局自分でCT室に向かうことも少なくありません。
「○時○分着でお願いします」と連絡が来たら、その時間にはCT室で待機。
副作用なく無事に検査が終わるのを見届けてから、急いで診察室に戻ります。
そんなこんなで、新患や予約外の重症患者さんが続くと、どんどん時間が押していきます。
急を要する方が優先になるのは当然ですが、その分待ち時間が長くなってしまい、本当に申し訳ない気持ちになります。
加えて、抗がん剤治療を受ける患者さんの最終判断も外来で行います。
当日の体調や採血結果を見て投与の可否を判断し、その場で薬剤部に電子カルテ上で最終確認ボタンを押します。
抗がん剤は大変高価な薬なので、最終確認後に必要量だけ調製されます。
多くの病院には化学療法室という治療室があります。
薬の準備ができると、我々のPHSに電話が鳴ります。
診察の合間を縫って、すぐに化学療法室へ。
通常の点滴なら看護師さんが針を刺しますが、抗がん剤や輸血、造影剤などの一部の薬剤を投与するための点滴は、原則医師が確保することになっています。
化学療法室に点滴当番の先生が常駐する大病院もありますが、多くの施設では人員は不足しているため、外来の主治医が呼ばれるのが現実。
外来で医師がふらっといなくなっても、決して休憩しているわけではありません。
点滴を取りに行っています。
化学療法室はギチギチにスケジュールが組まれているので、遅れると「早く点滴取ってください」とかなりプレッシャーが…。
スタッフにとって「良い先生かどうか」は、もはや点滴がうまいかどうかで決まります、ほんとに。
血管が見えづらい方の点滴は難易度が高く、汗だくでトライします。
カルテに血管の位置をイラストでメモしている医師もいますよ。
「焦りは禁物、急がば回れ…落ち着け…」と言い聞かせながら、なんとか点滴を確保し、再び外来へ。
診察室に戻ると、患者さんからの「やっと帰ってきた」という視線をしっかりと感じながら、すぐに診察再開です。
午前の外来はこんな感じで30人~35人ぐらいの予約患者さんを12時頃までに診察を終えます。
この頃には、緊急対応していた患者さんたちの検査結果がそろいはじめます。
当日緊急で入院が必要になったり、近日中に入院が必要になることも多いです。
最初の説明が肝心なので、ここは時間を気にせず、しっかりと理解していただけるまで説明を行います。
その上で患者さん本人の気持ちや予定なども考慮した上で、今後の必要な検査、治療、スケジュールを決めてオーダーをします。
また、午後の外来にはゆっくり時間をかけて説明するために、ご家族と一緒に来院するよう事前に説明をしてある外来予約もあります。
いわゆる”告知”の外来です。
初指摘されたがん患者さんのうち、私が専門とする消化器内科が担当する多くのケースではステージ4とかなり進行してしまい、完治を目標とする手術・治療が望めない方がほとんどです。
がんの一時的な縮小や進行の抑制のために、抗がん剤を軸とした治療や緩和ケアを考えていくことになります。
患者さん本人も、ご家族も、話す側の医師も大変つらい告知であり、動揺しない人など誰もいません。
ご本人様やご家族様の表情やしぐさを見ながら説明を行い、辛い事実は確実にお伝えしつつ、何か1つでも希望や目標となるものを設定できるように、個人的には配慮しながら説明をしていきます。
また、がん治療の継続が難しくなり、終末期医療(緩和ケア)に移行する方の告知も行います。
今後体力が低下して動けなくなってしまった際にも、がん性疼痛などに対する緩和ケアは最後まで必要となります。
在宅医療や緩和ケア病棟へ入所の準備をしたり、今後起こりうる合併症、急変時の心構えや、余命の見通しなど…。
なるべく通院・治療の最中に情報を小出しにはしていますが、人間なかなかその時になってみないとわからなかったり、気持ちの踏ん切りがつかないことも多いです。
短いと思われるかもしれませんが、20~30分程度かけてしっかりと話し合います。
この時間があるかどうかで、「最後の時期の向き合い方」が変わることも多く、個人的にとても大切にしている外来のひとときです。
方針が決まったところで、在宅や緩和ケア病棟の調整部門の方に引き継ぎを行います。
午前の外来は忙しすぎて、考える暇もないほどバタバタしています。
一方で、午後の外来は「うまく伝えられたかなぁ」と終わってからもいろいろと考えてしまいます。
こうして、外来が終了するのは早くて12時半。
重症患者さんが多いと14時頃になることも。
13時から始まる内視鏡検査や病棟処置に向けて、そそくさと診察室を後にします。
外来診療とは異なりますが、医師の業務で外来の遅延につながるもの……。
それはPHSの着信です。
病棟、検査室、薬局など、あらゆる場所から次々に電話がかかってきます。
内容も実に多岐にわたります。
・病棟から入院患者さんの発熱や転倒、急変など病状の変化に関する報告
・点滴や指示出しの依頼、頓用薬の使用の可否
・入院患者さんのご家族との病状説明の日程相談
・検査の異常値やオーダーの確認、処置時間の問い合わせ
・院外の薬局から処方内容の修正や、在庫不足による代替薬の問い合わせ
・他科の先生や研修医からの相談
これ、入院や外来の担当患者さんが増えれば増えるほど、着信も増えていきます。
前日夜間帯に入院した患者さんの担当になっていたり、消化器内科ではない病棟に入院している患者さんがいたりすると、コールが頻回になります。
患者さんにとっては診察の途中で遮られ、不快に思われることもあるでしょう。
特に大事な告知の最中に何度も電話で遮られると、医師としては不信感にも繋がりかねません。
でも、電話に出るまでは「緊急かどうか」の判断ができないんです。
また、内容が個人情報を含むことが多く、診察中の患者さんの前でうっかり話すわけにもいきません。
結果、口元を手で隠しながら小声で「あとで折り返します」と歯切れの悪い返答をせざるを得ないことも多いです……。
あまりに連絡が多かった日に一度着信数を数えたことがあります。
なんと1日で30件超え。
履歴が自動で消えて正確な数は最早わかりませんでした。
語弊のある言い方かもしれませんが、子育て中に「ねえねえ」「ママ見て」と呼ばれすぎて家事が進まない、あの感覚に近いかもしれません。
そんな中、病棟のリーダーナースさんが、電話を一括にしてまとめてくださったり、外来の区切り時間に合わせて事務さん経由で伝えてくれることも。
配慮いただき本当にありがたいです。
何より、患者さんも医師も落ち着いて外来ができる環境が整うことで、告知や今後の説明にも集中できます。
もちろん、我々の指示ミスや不手際で増える電話もあります。
自業自得な部分もあるとは思います。
でも——。
外来中のPHS着信、なんとかならないかなぁ…と、つい思ってしまいます。
以上、前後編にわたりリアルな医師の外来事情を書いてみました。
少し愚痴のようなところも多くなってしまいましたが、自分なりに少しでも早く正確でわかりやすい外来診療をできるように心がけているつもりです。
今後も少しでも外来の不足分を補えるような記事を、少しずつではありますが、連載していければと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
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